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2019/04/28

最近読んだ,認知科学本がとても面白かったよ! 「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」「知ってるつもり――無知の科学」

人の思考や認知に関する話は本当に興味深い。「なんで私はこう考えるのか?」「なんであの人はそう考えるのか?」人と話しているとき,時折これらの問いが私に降ってくる。簡単に答えられるとは思わないし,それを言い訳にして,この問いの答えを真剣に考えてもいないのだが,それでもやっぱりそういう話には興味があるし,もっと知りたいと思って本を漁ることもしばしば。そういうわけで,認知科学分野の最近読んだ本を3冊紹介する。どれもとてもオススメです。

さて,どれから紹介しようか…読みやすい順でいこうか。

・「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロランド
私達は思い込みで世界を見ている ー果たしてそれはどんな思い込みなのか?
私達が犯しがちな思い込み10個を実例を上げながらわかりやすく・面白く解説しているのがこの本だ。
著者のハンス・ロスリングは公衆衛生の専門家で,世界の様々な地域で活動していた。なので話は,世界は今どんな状況なのか?を私達の多くが誤解しているというところからスタートする。本のはじめに世界の状況に関する13個の質問があるのだが,これらの質問に正しく答えられる人はチャンスレベルよりも少ないことがほとんどだ(本の中で,国別の正答率や専門家における正答率が紹介されている)。私も数問しか正解できなかった。そして,その誤解のもとになっているのは私達の10の思い込みであるとし,データや事実を見て世界を正しく認識しよう,と呼びかける。
ハンスたちの特筆すべきところは,彼らはただデータや事実を見て世界を正しく認識しようと訴えているだけでなく,そのデータや事実を,統計や数字に疎い人にとっても分かりやすく提示しているところである。政府のサイト等でデータを見たことがある人は分かると思うが,素データというのは,素人には非常にとっつきずらい。どう解釈したらいいのか分からないことも多々ある。本書には彼らが作ったたくさんの図や表,集めた写真が提示されていて,そのデータの意味するところが直感的に分かるようになっている。本書でも紹介があるが,彼らが作って公開しているGapminder(https://www.gapminder.org/dollar-street/matrix)やDollar Street(https://www.gapminder.org/dollar-street/matrix)をぜひ見ていただきたい。

ちなみに,ハンスの考える10個の思い込みは,分断本能・ネガティブ本能・直線本能・恐怖本能・過大視本能・パターン化本能・宿命本能・単純化本能・犯人捜し本能・焦り本能である。原文では,本能をinstinctと使っている。つまり,人がつい飛びついてしまう思考の癖がこの10個である。詳しい説明は本書を参考にしてほしい。

ところで,ハンス・ロスリングはTEDで常連のプレゼンターでもあった。私が彼を初めて知ったのも,昔Eテレでやってた,TEDのプレゼンを紹介する番組「スーパープレゼンテーション」だった。彼の,洗濯機の話の,洗濯機があるから図書館に行けるのくだりがとてもとても印象に残っていて,この本が本屋で平積みされているのを見たときに,あぁ!この人!と思って本書に手を伸ばした。
ちなみに,洗濯機のプレゼンはこちら。


このビデオを見てもらうと分かる通り,彼はとても熱を持って話すプレゼンターだ。本書でもこの熱は健在で,まるで彼が私に語りかけてきているような文章になっている。だから読みやすいし,面白い。

・「知ってるつもり――無知の科学」スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック
続いて紹介するのも,人の思い込みにまつわる本だ。タイトル通り,私達は”知ってるつもり”になっている,ということを提示し,なぜ知ってるつもりになるのか,そもそも私達はどう思考するのか,”知ってるつもり”状態の中,私達はどう行動しどう意思決定していけばいいのか,などを説明している。こちらもとても面白く,だいぶ読み応えのある本だった。複雑な話をしているが,筋道や結論がしっかりしているので,それらが理解を助けてくれる。
印象的だったのは,”知ってるつもり”が生じる1つの理由でもあるが,私達は私とそれ以外の境界を明確に捉えていない,という話。私達は思考するとき,自分の身体と自分の外の情報を利用して(モノだったり,他者の意見だったり,思考のツールとしてテクノロジーを使ったり)思考する。それらの情報と自分の身体・思考は行ったり来たりして相互作用が生じており,明確に分別することは難しい。それゆえ,それらの外部情報が簡単に手に入ったり,身近なものであるときはなおさら,自分の頭の中にある知識ではないのにもかかわらず,それらについて”知ってるつもり”になってしまう。そしてその”知ってるつもり”はよく問題を生むのである。
”知ってるつもり”は悪ではない。”知ってるつもり”のおかげで,私達は極度な不安に陥ることなく生きていられる。自信を持って主張したり行動したりもできる。でもやはり,”知ってるつもり”はしばしば厄介な状況を引き起こす。だから,自分が何を知っていて何を知らないかについて正しく知ることは必要だし,コミュニティにおいて”知ってるつもり”による弊害を少しでも減らすために,著者らは個人の強みを活かしたチームでの活動や「リバタリアン・パターナリズム(緩やかな介入主義)」を提案している。「リバタリアン・パターナリズム」は,たとえその人が”知っているつもり”になっていたとしても,その人が本当に望んでいることや整合性のある決断を下せる判断をさりげなく薦める,という発想である。つまり,人が賢い判断をしやすくするための環境設計だ。その際の教訓として著者らは,噛み砕く(難しい事柄を5歳児でも分かるくらいに噛み砕く),意思決定のための単純なルール作り(分かりやすく実行しやすいルールを提示する),ジャスト・イン・タイム教育(その人が必要としているときに判断を助ける情報を提供する),自分の理解度の確認(自分が何を分かっていて何を分かっていないのかを把握する)を挙げている。

・「「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか」クリス・バーディック
さて,意図したつもりはないのだが,最後に紹介するのも人の思い込みにまつわる本になってしまった。こちらは,人が期待している結果・予測していることが,いかに実際の結果・未来に反映されるか,を説明した本である。そして,その期待している結果や予測は,自分自身の欲求はもとより,周囲から入ってくる情報の影響を非常に受ける。とにかく事例や実験の紹介が多く,そのせいで若干くどさを感じてしまうきらいもあり,また神経科学や医学系の専門用語が登場し理解に時間がかかるところもあるのだが,自分たちの思考が未来の事象に影響を及ぼすことをここまで提示されると,怖くなると同時に日々の自分の思考についてもっとモニタリングしないとなという気になってくる。ポジティブな期待・予測とネガティブな期待・予測のどちらも反映されるというのだから,なおさらだ。

以上で本の紹介はおしまい。どの本も,身につまされることの多い内容であった。そしてぼんやりと浮かんできたのは,短絡的な人間,コントロールが及ばなすぎる世界で生きる人間の姿(こんなことを言うこと自体 ”知ってるつもり” なんじゃない?と言われそうだが)。なんと愚かで無力!と上から目線でぶった切りたくなるが,もちろん私も人間なので,その姿は自分の姿でもあるわけです。ぶった切っても何も解決しないので,それを抱えながら生きますか…。