レオナルド・ダ・ヴィンチ 「少女の頭部/《岩窟の聖母》の天使のための習作」 |
美術館に入り,いざ展示へ…。最初に出迎えてくれたのは,彼らの肖像画と,彼らの素描の代表作とされている顔貌作品である。ここにある写真は,美術館内にフォトスポットとして用意されていた,元の絵を拡大したパネルだが,展示ではもちろん原画が迎えてくれる。どちらも本当に本当に美しい。かれこれ30分以上もこのセクションに滞在してしまった。
レオナルド・ダ・ヴィンチの作品は,金属尖筆で描かれている。細く繊細な線がいくつも組み合わさり,柔らかい女性の表情を作り出す。まぶたの丸みとか,唇のぽてっとした感じとか,絶妙な陰影具合とか,金属尖筆1本でどうやって生み出してるんだ!という感じ。まぶたや鼻や頬骨のところには鉛白によるハイライトがついているが,そのハイライトでさえあるべきところにあるべき分量で載せてあり,今にもこの女性が絵から飛び出してきそうなくらいリアル…。
ミケランジェロ 「《レダと白鳥》の頭部のための習作」 |
ミケランジェロ 「背を向けた男性裸体像」 |
素描以外にも印象に残ったものがある。それは,レオナルド・ダ・ヴィンチの鏡文字満載の手稿と,ミケランジェロ―カヴァリエーリ間でなされた愛情あふれるお手紙。イタリア語はさっぱりなので何が書いてあるかは解説・翻訳に頼るしかなかったのだが,レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿からは,彼の細かさというか緻密さ,それから探究心がにじみ出ている。というのも,天体や武器,馬の鋳型の作り方など多岐にわたって細かく絵入りで書き留めているからである。お手紙のほうは,なんともほほえましいものであった。なかなか返事をくれないミケランジェロにカヴァリエーリが小言を言って…という前置きの元,ミケランジェロがカヴァリエーリに送った手紙とそれに対するカヴァリエーリからの返事が展示されていた。ミケランジェロのちょっと必死になっている感じ,焦っている感じが内容に表れていたように思う。カヴァリエーリはそんなミケランジェロの言葉をおおらかに受け止め慕う,という感じだろうか。こんなふうに言葉を尽くして愛を伝え合える関係はいいなと思う。
ところで,本記事のタイトルの「素描せよ,時間を無駄にしてはならない」は,ミケランジェロが弟子のアントニオに言った言葉として残っている。レオナルド・ダ・ヴィンチもまた,素描を大事にしていた。「画家はまず,優れた師匠の手による素描の模写に習熟しなければならない」といった言葉を残している。私自身絵を描き始めて感じたことだが,デッサンは本当に難しい。モティーフのデッサンや写真や絵の模写など鉛筆と消しゴムだけで600枚近く小さい絵を描いているが,自分の気に入る線を引けていない。ミケランジェロも「素描せよ」と言っている。素描を続け,いつか自分の納得のいく線を引けるようになることに期待したい。