少女マンガの中で私がもっとも好きなのは「イタズラなKiss」(作:多田かおる)である。小学生の頃初めて読み、これまでに何度読み返したかわからない。このマンガはこれまでに幾度かドラマ化されていて、現在もフジテレビが新しいのを放映している。最初のドラマ化は90年代に日本で、今世紀に入ってからは台湾と韓国でも制作された。そして今回再び日本で新しいキャストで制作された。ドラマも全て見ているほどの好きっぷりなのだが、今回の日本版は先に挙げたどのバージョンよりもストーリーやキャラクター設定が原作に忠実で、こちらにもはまっている次第である。
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「イタズラなKiss」は、主人公の琴子と入江くんの高校時代~20代における恋愛物語だ。落ちこぼれで料理下手、たいていのことは失敗する琴子が、IQ200の天才かつ運動神経抜群、高身長で顔もかっこいい入江くんに恋をし、ラブレターを渡そうとするも、受け取ってもらえずに拒絶されるところから話はスタートする。その後諸事情により、琴子と琴子の父(琴子の母は亡くなっているという設定)は入江家に同居することになり、いろんな障壁がありながらも、いつの間にか入江くんも琴子を好きになり、2人は結婚、琴子は4年越しの恋を実らせる。結婚&大学卒業後はそれぞれ看護師と医師になり、結婚生活も続いていく。作者が連載中に亡くなってしまったため、作品は未完。ざっくりとしたあらすじはこんな感じだ。
もう数えきれないくらいこのマンガを読んでいて、話の展開も印象的なシーンも詳細に覚えているに、それでもまた読みたくなるのはどうしてだろう。なんで私はこのマンガが大好きなんだろうか。恋愛ものだがストーリーはコミカルでおもしろいし、絵も嫌いじゃない、脇役もたくさんいて、それで話もさらに盛り上がる、好きなところはいくつかあるが、「主人公が好き」というのがいちばん大きいと思う。主人公は前出の琴子と入江くん。2人の雰囲気や恋愛模様も好きだが、それ以上に個々のキャラクターが好きなのだ。
琴子は上記したように、ドジでたいていのことは失敗し、高校・大学では落ちこぼれ、見た目は人並みである。しかし同時に、元気で明るく前向き、そして自分の感情や思いに正直で、しばしばそれに忠実に行動する。裏表がなく、できてもできなくても一生懸命。友達思いですれていない。入江くんへの気持ちは誰よりも重く、いつも全身で好きをアピールしている。私は読むたびに琴子のキャラクターに心を動かされるし、その素直さや、突っ走った行動に走るパワーを純粋にすごいと感じる。そして可愛いとも思う。琴子が醸し出すパワーに感染した、とでも言おうか。おそらくそれは、自分が自覚している自分と、自分がこうありたいと思う自分の差に由来するものであり、あこがれが混じっているんだと思う。琴子以上に私に感染力を発揮するマンガの主人公に会ったことがない。
もうひとりの主人公の入江くんは、属性ではMr.パーフェクト。頭良し、ルックス良し、しかもなんでもできる。しかしなんでもできるがゆえ、常に冷静沈着で冷淡なところがあり、平気で人をバカにする。でも入江くんは琴子と嫌々接してく中で徐々に変化していく。これまで湧いてこなかったような気持ちを感じたり、変わっていく自分に戸惑ったりする。琴子は入江くんにも感染力を発揮するのだ(私より入江くんに感染するほうが先であるが…)。そして冷淡さは緩和され、根っこのところに優しさを持ち合わせた人間になる。入江くんの魅力は(もちろん属性もすばらしい)、異質なものや変化を受け入れそれに対処していく、優しさをはき違えていない、というところだろうか。異物・変化は自己の安定に揺さぶりをかけるため、基本的には脅威である。にもかかわらず物語が進むにつれ、それを受け入れて向き合うということを自分の意思で選択する。もう逃げられないと思った、慣れてきた、一緒にいると意外と楽しい…理由は何にせよ、自分から変化に飛び込んでいくにはけっこう力がいる。はき違えていない優しさとは、言い換えれば上っ面の優しさではない、ということ。相手の成長のための優しさ、相手の幸せを考えたうえでの優しさとでも言おうか。そういう優しさは、相手と向き合い、相手のことを考えている証拠である。
少女マンガの登場人物についてこんなに熱心に語っていると、「所詮マンガの世界でしょ」「現実にはそんな人はいないよ」などいう辛口コメントが聞こえてきてそうだ。「それはそうなんだけど…」と答えそうになる。がしかし、登場人物そのままのような人間は存在しないかもしれないが、登場人物が持っている個々の特性は現実の人間に存在しないものではない。よって、これは少女マンガに限ったことではないが、登場人物を好きな理由を探ることで、自分のことがちょっとだけ明らかになる。自分は人間のどういう部分に価値をおいているか、今の自分はどんな状況なのかが見えてくる。モデルとしても機能する。
・・・まぁ詰まるところ、少女マンガの世界に浸るのは楽しいのだ。