かけるとこんな感じ |
めがねをかけながらやってみたことは,自分の名前を書くことだ。当たり前の話だが,めがねを通して見える正しい字は,めがねを外したときに見える字と反転している。だから,めがねを通して見た字が正しくきれいに書けていたら,実際は,きれいに上下または左右が反転しているということになる。私は見事にこれをやってのけ,美しい反転文字を書いてしまった。自分が書いたものを見て書くことを頼りにすると,正しい向きの文字を書くのがひどく難しくなる。どうしても目から入ってくる情報に引きずられるからだ。だから,視覚を頼りにせずに ,自分の腕が正しい字を書くように動いているかに注意を向け,腕の動きを微調整しつつ書いていくと,正確な向きで早く字を書けるようになる。
結局私は10分くらいしか体験しなかったが,その授業を担当している先生の知人で,反転めがねをつけながら一定期間過ごした人がいるらしい。反転した世界を見ながら街中を歩くとか,電車に乗るとか,想像しただけでちょっと怖い。先生の話によれば,かけはじめたの頃はやはり大変だったようだが,徐々にその世界に慣れ,適応し,日常生活を送れるようになったとのこと。
人間はあらゆる情報を感覚器官で受け取って処理しながら生きているが,視覚情報の影響力は強い。人間の運動は,外部から受け取った情報をもとにしてなされ,視覚―運動で協応関係ができあがっている。逆さめがねをかけると,視覚情報がいつものものと全く別物になるので,それまでの視覚―運動の協応関係は崩れることになる。しかし,反転した世界もしばらくすると慣れてくる。その間,トライ&フィードバックを繰り返しつつ,視覚―運動の協応関係が再構築される。だから日常生活が送れるようになるのだろう。恐るべし,人間の適応力!