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2018/12/31

2018年 納め

流されて過ごすことが多い日々を過ごしているが,「どう生きたいか」という問いは,ことあるごとに主張してくる。フィクションであれ,ノンフィクションであれ,他の人の生き方,人との関わり方を知ることで,この問いに向き合わされることの多い1年だった。
BLとデビルズラインに沼落ちし,人を好きになることとか,人とどういう関係を築くことを望んでいるのかを考えさせられた。能町さんの契約結婚コラム(http://webheibon.jp/pursuit-of-marriage/)とか,アルテイシアさんのJJ入門コラム(https://www.gentosha.jp/series/artesia_jukujo)を読んで,結婚とか,いわゆる,おひとりさまについて考えさせられた。
また,学生生活が終わり,口に糊するために何をするか,少しでも満たされた1日を過ごすためにどうするか,そんなことも考えざるを得ない1年だった。
結局答えらしい答えは出ていないけれど,昨年よりも少しだけ自分の望むことが分かったかもしれない。
来年もまた1歩1歩……

2018/12/23

コーチング関連本を読んでるよ Week 6

コーチング関連本,122冊読了しよう企画をやっております。

◇「9タイプ・コーチング―部下は9つの人格に分けられる」安村明史
エニグラムを使って部下の気質を知り,その気質に応じたコミュニケーションを行うことで,部下を生かし成長させていきましょう!という内容。エニグラムを使うことでどんなメリットがあるかを,体験談を交えて書いている。また,自分がどのタイプかを判断するエニグラムのテストもあり。9タイプ全てについて,その特徴とコミュニケーションのとり方も載っている。
エニグラム,心理学を長年やっていたので存在は知っていたが,著者がいうほど信頼性の高いテストだとはまったく思っていなかった。著者によれば,エニグラムは,古代アフガニスタン王家に端を発し,最近では,9タイプはそれぞれ,脳内の神経伝達物質(ドーパミン,ノルエピネフリン,セロトニン)の活性の高低を反映しているということが分かってきた(そういう研究がある)。また,通常エニアグラムは質問紙法が用いられるが,著者たちは,絵を描かせてその絵からタイプを判断する,投影法の判断法も紹介している。同じタイプの人は,同じ傾向を持つ絵を描くらしい。
質問紙法をどうにも信用できない私としては,投影法による診断を受けたい気分だが。
興味のある人は,著者の会社のホームページへ。質問に答えると,無料で自分がどのタイプか教えてくれます。http://www.enneacoach.com/wp/

◇「カウンセラーのコーチング術」市毛恵子
臨床心理士の著者によるコーチング論。カウンセリングで用いられる考え方も取り入れつつ,クライアントとのコミュニケーション法を述べている。
ところで,日常生活において,コミュニケーションがストレスを生じさせることはけっこう多い。どんなコミュニケーションがストレスになるのか。著者によれば,未完了感の残るコミュニケーションである。自分の投げた言葉を相手に受け取ってもらえない。相手の投げた言葉を受け取れない。会話はよくキャッチボールに例えられるが,キャッチボールがうまくいかないとき,その人の中では未完了感が残り,イライラが募っていく。未完了感のある人がとる行動は,人の基本的な行動パターンであるfight or flight。攻撃的になって怒りっぽくなったり,批判的になったり,相手の話をきかなくなるか,内にこもって口数が減ったり,人との接触を避けたり,他のものに依存したりしていくようになっていく。未完了感を減らすには,しっかり自分の話を受け止めてくれる人が必要なのだ。とはいえ,人の話を聴くのは難しい。なぜなら,人は忙しいから。それに自分が未完了感を抱えていたり,会話において相手より優位な立場に立とうとすると話は聴けなくなる。だからこそ,人の話を聞くことが商売になるということなのだろう……。
その他にもこの本には,タイプA, B, Cパーソナリティに対するコミュニケーション法や,気に食わない相手と関わるにはどうするか,などが記載されている。

◇「クライアント満足を10倍にする カウンセリングとコーチングの合わせ技」倉成央,谷口祥子
臨床心理士とコーチ兼カウンセラーによる共著。カウンセリングとコーチング,重なる部分もあるけれど,その目的は違っている。カウンセリングは,病んでいる状態や落ち込んでいる状態,いわばマイナスの状態を改善してゼロの状態へ引き上げようとするが,コーチングは現在からさらなる成長を求めて,つまり,ゼロからプラスの状態へと引き上げることを目的とする。よって,クライアントの状態に応じて,カウンセリング的手法とコーチング的手法を使い分け,クライアントを効果的に導いていきましょうと説く。
カウンセリングでは,著者が取り組むインナーチェンジングセラピーと愛着カウンセリングが紹介されている。インナーチェンジングセラピーとは,小さい頃に取り入れてしまった思考・感情・行動のパターンを変化させることを目的とする。そのために,そのパターンを取り入れてしまった出来事を掘り起こし,そのとき感じた感情を十分に体験する,ということを行う。このようなプロセスを経て感情が処理されることで,理屈だけで変化させようとするよりも,自然な納得感を伴った変化を生じさせることができるという。愛着カウンセリングでは,理想的な愛着対象から十分に愛情を受けていることを想像させることで自己の安定を図っていくようである。
コーチングについては,それほど目新しい内容は書かれておらず,会話例は単純で,ホントにこんなふうにいくの?……という感じであった。後半は冗長気味。
全体的に誤植が多いのが気になった……

65/122 読了

2018/12/13

コーチング関連本を読んでるよ Week 5

コーチング関連本,122冊読了しよう企画をやっております。

◇「成功者に学ぶ「決断」の技術──夢をかなえる最強のコーチング」 鈴木義幸
人はどのようにして行動することを決めるのか…さまざまな企業のマネージャーにコーチングを行っている著者による,実際のコーチング場面で,クライアントがいかに決断したかを提示した本である。コーチである著者とクライアントによる,え,こんなことも言うの?とも思えるやりとりが載っていて,びっくりしながら読んだ。というのも,これまで読んできた本には,コーチがクライアントに対してあまり厳しいこと・耳が痛くなるようなことを言っていなかったから。なんというか,本気のやりとりを見せてもらったような感じである。
著者は,物事や言葉に付与されている意味が,その人の中で変わったときに人は新たな行動を起こすと考えている。例えば,「部下の話に耳を傾ける」ということに人はどんな意味付けをしているだろうか。「忙しくて時間がないし後回しでよい」と意味づけしている人,「自分の業績につながる」と意味づけしている人,いろいろいるだろう。このとき,前者のように意味づけをしている人は,いくら「部下の話に耳を傾ける」ということが大切だと人から説明されたとしても動かない。動くようになるには,意識的に,それ以上に ”無意識的にも” その人の中で意味付けが変わっていなければいけないのだ。頭ではわかっているけど行動できない,というのは,筆者から言わせれば,無意識においては意味付けが変化していないということである。この,クライアント自身の中にある意味付けを変えるためにも,著者は先に述べたような,本気のやりとりを繰り広げているように思う。

◇「実践・プレッシャー管理のセオリー ビジネスパーソン必修 メンタル・タフネス強化のセルフコーチング術」高杉尚孝
「~でなければならぬ」という思考を,「~であるのが望ましい」+「~でなければならぬ理由はない」という思考に変えていきましょう,ということがひたすら書いてある本。前半では,出来事→解釈→感情→行動の流れを説明していき,後半は,コーチと様々な悩めるクライアントの会話をいくつか取り上げ,どんな「ねばならぬ」思考をしていて,それをどう「~が望ましい」にしていくかのプロセスが描かれる。
著者は,出来事の受け取り方・解釈の仕方を変えれば,そこで生じる感情も変わり,その結果行動も変わり,パフォーマンスが向上すると考えている。「ねばならぬ」ことなどこの世にはなく,大抵はその人が「ねばならぬ」と思い込んでいるだけ……。論理的に考えるとそうであることが納得できるでしょうというスタンスだ。そして,「ねばならぬ」思考は,モチベーションを上げるとも限らず,プレッシャー等からむしろパフォーマンスを下げることがあるという。だから,「ねばならぬ」という絶対要求ではなく,「望ましい」という願望を!と説くのである。
ま,それは確かにそうなのだけれども……なんだろうね,この琴線に触れない感……
とにかく,理を全面に出している本です。

◇「本番に強い子に育てるコーチング---個性を活かし、集中力と潜在力をフルに引きだす指導法とは」児玉光雄
試合やテストというのは誰でも緊張するもの。そんなとき,いつも通り,あるいはいつも以上の力を発揮することのできる強さは,どうやったら身につけていけるのか…そして,親はそんな子にするためにどんなサポートをしていったらいいのか…それについていくつものtipsが載っている。あまり体系的には書かれてはいなくて,効果のあるものを集めてまとめた,という感じである。著者はスポーツ心理学を専門にしている方。ホンマでっかTVにも出演経験があるらしい。
印象的だったことをいくつか取り上げる。1つ目は正しい目標の立て方に関して。目標を立てることが自己成長において重要なことは言わずもがなだが,じゃあどうやって目標を立てるの?というと,さまざまな意見・方法が出てくる。著者は,とある研究を引用して「10%増しの目標,あるいは6割の確率で達成できる目標」が正しい目標であり,やる気を最大限に引き上げるものだとしている。なるほど,達成できるかもしれないし,達成できないかもしれない,というギリギリのラインのところで設定せよということなのだろう。
続いて,自己イメージの重要性。自己イメージによって人の行動は変わる,端的に言えば,できないと思っていればできないし,できると思っていればできるのである。このことに関して,英単語の試験成績が悪く,苦手意識のあった子に「英単語を記憶することを私は好きだ」と自己暗示をさせることで自己イメージを変化させ,試験成績が上がった例を紹介している。
また,努力は100%自分でコントロールできるが,結果はコントロールできないということ。だから,結果に左右されてはいけないし,自分でコントロールできないことには反応しないようにすること。ニーバーの祈りを思い出した。「変えられるものを変えることができる勇気を,変えられないものを受け入れる落ち着きを」…。つまりは努力することそれ自体にフォーカスせよということだ。
最後に,著者が開発した集中力を高めるライン追跡トレーニングを紹介。写真のラインを,目だけで右から左に追跡するというものである。週3-4回のペースでトレーニングすることで集中力が向上するらしい!

◇「キリカエ力は、指導力―常識も理屈も吹っ飛ぶコーチング」宿沢広朗,山口良治,山田久志,玉木正之,永井洋一,平尾誠二
スポーツ界でコーチをしてきた/スポーツライターをしている著者たちが,自信のコーチ論,経験について語っている本。内容も,文章が醸し出す雰囲気もそれぞれ違っていて,興味が分かれるかもしれない。昭和~の指導方法の変遷について触れ,今どんな指導が求められているかを述べている著者もいる。山口さんの伏見工業の話は,以前別の本
(アスリート・コーチングBOOK―日本一の指導者に聞いたコーチング術)で読んだことがあるが,相変わらずほろっとくるような内容だった。この方,感情に訴える文章を書く/話すのがうまいな…
個人的には,平尾さんの書いていた「コーチングで一番重要なことは何かというと,その選手がいかに前向きに取り組んでいけるか,意欲をどうつけてやるかなど,メンタルの部分にかかわってくると思います」が最も共感したところ。英語指導も同じこと。基本的に,やる人はほっといてもやるのだ。自分でどんどん調べて学習し,聞いてくることもはっきりしている。方法論など巷にあふれているのだから。だったらそういう人をいかに「やる,やりたい」方向に持っていくか,そこに注力すべき。

◇「コーチングの技術―組織が変わり成果が変わるコーチングとは?」ヒューマンバリュー
コーチングの世界的権威と言われているティモシー・ゴールウェイの理論を紹介しつつ,コーチングの歴史的背景,哲学,コーチに求められるスキルやコーチングプロセスが載っている。ティモシー・ゴールウェイに関しては,他の著書で名前とちょっとしたエピソードが載っていたので,なんとなく知ってはいたが,この本で彼がやっていたことの理解が少し進んだ。
ティモシー・ゴールウェイはテニスコーチで,自身の経験から,セルフ1とセルフ2に関する理論を提唱した。セルフ1はいわば意識的な監視・評価・命令さんで,セルフ2は非意識の潜在能力発揮さんである。私達は何かをするとき,たいていセルフ1が,評価や命令をそして干渉する。また,低い自己イメージを作り上げてしまうのもセルフ1。それによってセルフ2は自由に活躍できなくなってしまうのだ。彼は,最高のパフォーマンスが発揮されるのは,セルフ1が静かになってセルフ2が自由に力を発揮できるときだとわかった。それを生じさせるのが,「変数に意識を向けること」とのこと。つまり,生じている事象をありのままに知覚・認識できるように努めることである。そして,コーチはそのための手助けをクライアントにするわけである。
彼はまた,仕事のパフォーマンス向上のためには…ということで,パフォーマンスを高めようとするのではなく,学習と喜びを高めることで,結果的にパフォーマンスが上がっていくということを述べている。

◇「セルフ・コーチング入門<第2版>」本間正人,松瀬理保
タイトルどおり,初めてセルフ・コーチングするよ!って人にやさしい本。セルフ・コーチングと,コーチを雇うことそれぞれのメリット・デメリットや,セルフ・コーチングの仕方,ケーススタディ等が紹介されている。ケーススタディは,芸能人の名前をもじった人を登場させ,彼・彼女が仕事で今抱えている問題についてセルフ・コーチングする様子がひとり語りで語られている。しかも,あるあるな内容。思考の展開の仕方が把握できるから,自分で実際にやってみて,これでいいのかな?と思ったときの確認にも使える。
成長につながる行動を妨げる,5つの思考の罠についても紹介されている。どうして私ばかり…!に代表される「なぜなぜ回路」,愚痴の「ぐちぐち回路」,○○はどうなるんだろう…に代表される「心配回路」,きっと○○なんだろう…の「憶測回路」,思考があちこちに飛ぶ「散漫回路」である。これらの回路が自分の中で発生していることに気づいたら,すぐそこから離れることをおすすめする。

◇「イチロー選手の言葉に学ぶ セルフ・コーチング」庵里直見,鈴木信市
目的思考型心理学(初めて聞いた名称だが)を実践する著者の庵里さんによれば,イチローの言葉は,目的思考型心理学に即しているらしい。そこで,イチローの言葉や行動を紹介しながら目的思考型心理学のコミュニケーションを紹介していく。そして,そのコミュニケーションが,まさにセルフ・コーチングになるというわけだ。
そもそも,目的思考型心理学とは何なのか?著者によれば,「まず,手に入れたい結果を強くイメージします。そして,自分の長所をどう伸ばすかに集中する。言わばその相乗効果によって物事を成し遂げようとするのです。」とのこと。カウンセリング等でよく見られる,原因究明型のアプローチはとらない。
この本にはイチローの言葉がいくつも出てくるが,いちばん驚愕したのは,イチローが小学生のときに書いたという将来の夢に関する作文。具体的かつ詳細に書かれている。客観的な自己評価もしているし,根拠付も十分…なんだってあんなものを小学生で書けるのか…。

◇「コーチングが人を活かす」鈴木義幸
以前読んだ「図解コーチングスキル」とほぼ同じ内容。章立て(相手の中から答えを引き出す,安心感と自信を与える,未来への夢を抱かせる,新しい視点を与える,自発的な行動を促す)はコーチングの基本指針になっており,全部で50個のコミュニケーション法が載っている。箇条書きだから気軽に読める。著者の実体験も交えながらでわかりやすい。
50個の中に,「価値を見つける」という項がある。どの行動をしているとき,あるいはどの状態にいるとき,いちばん生き生きしているのか?という問いのもと,複数の動詞が並ぶ(探索する,輝いている,触れ合う,奉仕する,勝つ,達成する,説得する,つながっている,など)。コーチはクライアントが重きを置いている価値を知っておくことで,適切なアプローチができる。その価値をうまく使って行動を促せるからだ。また,コーチ自身にとっても,自分が重要視している価値を知っておくことは,自分を知る・自己コントロールするうえで役に立つだろう。さて,私は何に価値を置いているのだろうか?

◇「コーチングのプロが教える心を動かすリーダーシップ」鈴木義幸
またまた鈴木さんの本。今回のは,会社員から社長になったある男性を主人公とした物語調になっている。もともとは,銀行に勤務していた主人公。そんな主人公のもとに突然,父親が倒れたとの知らせが入り,父の経営していた会社を継ぐことを決意する。年商100億円,1000人の従業員を抱える企業である。しかし,500円の負債もあった…。父の会社に入社後1年間の猶予期間を経て,同会社の社長となるが…。物語には,コーチが主人公にどのようにコーチングを行い,コーチングを受けた主人公はどういう行動に出て,どう会社を変えていくか,が描かれる。ちなみに,この物語は,主人公の名前以外はすべて実話を元にしており,鈴木さんがあるクライアントと歩んだ3年半を描いている。
個人的にはすごく面白かった。最初は経営者の自覚もないまま義務感・なんとなく感の漂う経営者だった主人公が,「自分はどうしたいのか?」を何度も考え,「リーダーになること」を決め,行動を起こしていく。その過程で発生するたくさんの問題(主に社内の人間関係)にも懸命に対処し,自覚と責任のある経営者になっていく…。その様子が生き生きと描かれていた。
鈴木さんは,”人はリーダーに「なって」いくんだな”と言っている。”もちろん先天的にリーダーとして資質が高い人もいるでしょう。しかし,リーダーシップは後天的にも,十分獲得できると確信するようになりました”と述べている。

◇「カルロス・ゴーン流 リーダーシップ・コーチングのスキル」安部哲也,岸英光
最近話題のカルロス・ゴーン氏。著者によれば,彼のリーダーシップは,経営層→全社へのトップダウン型と,現場→経営層へのボトムアップ型をうまく融合させたものらしい。「リーダーが強力なリーダーシップを発揮して,日産復活というビジョンの実現に向けてすべてのメンバーを率いていく。と同時に,コーチング的な手法を用いて,社員とのコミュニケーションを徹底的に重視し,メンバーの能力を最大限,導き出していく。」とのことだ。ゴーン氏が実際にやったこと,ゴーン氏の手法をまとめている。コーチングというよりはマネジメントの本に近い。
ゴーン氏についても,日産のV字回復についてもほとんど知識がない状態で読んだので,へ~と感じるところが多かった。ゴーン氏の,多様性を活かす姿勢や,他人にフィードバックを求めそれを活かす姿勢,アンガーコントロールが印象的だった。

◇「決定版 部下を育てるコーチング 」菅原裕子
菅原さんの本も,もう何冊目になるだろうか。子育てコーチングに始まり,組織におけるコーチング論は2冊めかな。上司の仕事は,心理的報酬を得られる「場づくり」とする著者。仕事への情熱は,そこに参加しているという実感が持てることで高まるとし,部下の話の傾聴(部下の安心感につながる),部下を信頼して多くを求めること,良いときも悪いときもフィードバックすること,で「場」をつくるようアドバイスする。
また,ファシリテーターを置いた会議についてもページを割き,事前準備をしっかりした,目的のある,ブレない,結果の出る会議の仕方についても説明している。
著者は,「コーチはただ相手の考えを深めるために,質問する役割を担っていると考えましょう」という。私たちが普段何かを伝えようとするとき,言葉ですべてを言い表すことはなかなかできず,無意識のうちにかなり省略し,一般化してしゃべっている。つまり,私たちは「思考の概略」しか話していないのだ。だから「その概略が何を意味しているのかを質問することで,相手の無意識にアクセスし,より多くの具体的な情報を引き出すことができる」と言う。そして,省略している側も,意識的に省略しているわけではないので,質問されて答えているうちに,自分が何を考え,何を問題とし,何が解決策かに気づくことができるとしている。

62/122 読了

2018/12/04

コーチング関連本を読んでるよ Week 4

コーチング関連本,122冊読了しよう企画をやっております。

◇「やってみよう!コーチング―8つのスキルで子どもの意欲を引き出す」石川尚子
著者が高校生に対して行った,高校生向けのキャリア相談の事例がたくさん盛り込まれた内容。傾聴,承認,質問,Iメッセージ,リフレーミング,フューチャーペーシング等のコーチングのスキルが,事例を交えながら生き生きと紹介されている。
「相手の可能性を信じる」。このスタンス・あり方を著者は実践しているのが伝わってくる。だからこそ,高校生は著者に対して心を開き始めるし,何かをやろうという気になれる,頑張れる。信じてくれる人がいるということは,どれだけ心強いことだろう。私の好きなアニメ「ユーリ!!! on ICE」の7話はまさにそういうことなのだよ。極度のプレッシャーに潰されそうな勇利くんがコーチのヴィクトルに泣きながら訴える「僕が勝つって僕より信じてよ。黙ってていいから離れずにそばにいてよ」。当時の私の気持ちと相まって,初めてこのシーンを観たときからずっとずっと神セリフだと思っていたが,コーチ,教育者はこの言葉を真摯に受け止め,「信じる」ことを実践していくことが求められると思う。

◇「自分を変える習慣力 (Business Life 1)」三浦将
良い習慣を身につけることから自己変革を始めよう,ということで,習慣を身につけるためのtipsが丁寧にわかりやすく書かれている。企業の人材育成や組織開発,「習慣力」を身につけてもらうためのコーチング等を行っている著者による本。心理学関連の知見も盛り込んで理論にも触れているが,あくまでも実践を重視する三浦さん。知らない→知っているへ。知っている→できるへ。できる→やっているへ。習慣とは,それをすることが当然だと自動化されている状態,つまり,やっているの状態である。そもそも習慣を身につけることはそう簡単ではないことを主張しつつ,新しい習慣を身につけるための,取り組みやすいほんとに小さな第一歩を教えてくれる。
この本を読んでいて,個人的に身につけたい習慣が出てきて取り組み始めた。亀の歩みでも日々実践あるのみ。

◇「相手を変える習慣力 (BusinessLife 6)」三浦将
今回は,「相手を変える」ことに目的が置かれている。先の著書はセルフコーチング色が強かったのに対して,今回のは相手へのコーチング色が強い。といっても,承認,傾聴といった,コーチングの超基本事項を丁寧に話すことをメインとしており,そういうことが習慣になっている自分になること,そしてその自分と接するから相手も変化していく,という意味で「相手を変える」と言っている。決して強制的に相手を変えることをするわけではない。
「相手へのレッテル貼り」についてが印象に残った。人はついつい相手のことを勝手に解釈してしまう。だから「相手の現在の状態と相手の本質を切り離す」。また,相手がいることを想定して会話を再現し,そのあと,座る位置を変えるなどして相手の位置に身をおき,先程の言葉を浴びせられたときの感情や浴びせている自分がどう見えるかを観察する。そういうのを通して相手への思い込みを減らしていく。これもまた積み重ねあるのみだな…。

◇「才能スイッチ」三浦将
潜在意識を活かすためにリフレーミングを行うこと(認知のゆがみを修正していくこと),さらには創造性を生むための手法や高パフォーマンスの組織をいかに作っていくか等について書かれている。コーチングの基本姿勢ほか,著者の考え方のベースになっているアドラー心理学の内容も見られる。
潜在意識は,著者によれば,顕在意識を凌駕する力がある。そして,潜在意識の最大の欲求は「安心安全」。安心安全を脅かされたくないがゆえ,潜在意識は現状を変えることや変化することを嫌うという。つまり、潜在意識が安心安全を感じている状態を維持したまま気づきを起こしたり,行動を変えていかなければ,潜在意識の抵抗に会い,骨折り損になるうえ,劣等感等のネガティブ感情が増す結果となる。
ちなみに,潜在意識が危険を感じる状態とは,過度なストレスやプレッシャーのある状態・環境,悲観的になっている状態,勇気がくじかれている状態とのこと。自身ではリフレーミングによって,対人ではそういう状態にさせないような接し方をすることで潜在意識は守れる。 

◇「コーチングのプロが教える 「できる自分」を呼び覚ます一番シンプルな方法」三浦将
今回のは,自己肯定感に関する内容。日本人の自己肯定感の低さはよく言われていることだが,著者は,自己肯定感は元々どんな人にも十分に備わっているというスタンスをとる。それが生きていく中で,教育や文化などの環境要因によって削られていく。「~でなければならない」という思い込みは,自己肯定感を低くする大きな要因になるとのこと。それがその人を苦しめる。ということで,自分の中の思い込みをあぶり出し,リフレーミングし,リフレーミング後の行動を習慣化していくことで自己肯定感を徐々に高めていきましょう,と提案する。これまでの著者の本に書かれていたことの核となることを抽出し,それらにさらなる説明と新たな行動提案を加えた内容だった。行動を起こす前のマインドの問題を詳しく扱っているので,個人的にはこれまでに読んだ4冊の中でいちばんオススメ。
本書には自己肯定感の低い人の7つの特徴がまとまっているのだけど,身に覚えがありすぎてヒィィ……となったよ。ま,でもこれから変わっていけばいいのだしね。

◇「チャイルド・スタディ・コーチング―成績向上のための新しい秘密」ペガサス・プランニング
パソコン学習るコーチング兼学習のさせ方本。その子の習熟度に合った学習を自主的にさせるためにはどうすればいいか,が著者たちの経験に基づいて書かれている。
著者が大事にするのは,問題を解いたりノートにまとめたりするアウトプット学習である。分からない問題が出てきたら,分かるところまで戻って問題を解き理解していく。ノートに書くこと自体が学習になり,それを使って復習させる。
また,著者が塾のロールモデルとした松下村塾についてもページが裂かれている。松下村塾では塾生一人一人に合った臨機応変なものであり,内容や時間は塾生主体。先入観を捨て,塾生と平等な立場で接する,褒め上手でありつつ叱ることも徹底してなされる,塾生同士を競わせる,というのも松下村塾の特徴とのこと。

◇「対人援助のためのコーチング―利用者の自己決定とやる気をサポート」諏訪茂樹
医療・福祉現場で働く人をターゲット読者としたコーチング本。教科書・マニュアル的な要素が強い。事例もやや紋切り型感がある。著者は,開かれた質問(yes, noで答えるタイプではない質問)こそがコーチングの最も大切なことという。
プロセスレコードの手法(コーチングで行った会話を書き出し,複数人でその会話を振り返る)は自身のコーチングの振り返りや改善に使えると思った。

◇「コーチングの技術」菅原裕子
子育てコーチング本を書いている著者による,組織で行うコーチングに関する本。菅原さんの子育て本はこれまでに3冊読んだが,対大人向けコーチングということで趣は異なるものの,こちらもわかりやすく書かれている。
相手の話を,相手の意図を組んでそれを殺さないようにしながら聞くことは本当に難しい。相手の答えを聞く前に話し始めたり,意見を押し付けたりしてしまうこともしばしば。筆者の言葉を借りれば,聞くことの「待つ態勢」から「攻め態勢」になってしまうのだ。この本では,親子の会話を例にとりあげてさまざまな「攻め」パターンの反応を提示している。質問型・脅迫型・非難型・否定型・詮索型・ごまかし型・肯定型・説教型・命令型・忠告型・激励型…。私もついついやってるよなと身につまされる。そして,自分が誰かからそういう反応をされたときのことを思い出して,あぁ確かにすっきりしない気分になるよな…と思う。著者は,コミュニケーションの本来の目的は「相互理解」だという。そして,どういう反応・質問をするのが「相互理解」を促すのかを教えてくれる。

◇「怒ってばかりの子育てが変わるコーチング」最上輝未子
コーチングを取り入れた子育てで,イライラから抜け出そう!という,ママ向けの子育てコーチング本。著者はプロコーチである。
この本では,アサーティブコミュニケーションにも触れている。著者によれば,アサーティブコミュニケーションとは,「相手の権利を侵害することなく,自分はどうしたいのか
,何が必要なのか,そしてどう感じているのかを,相手に対して,誠実に,率直に,対等に,自信をもって伝えることのできる,コミュニケーション方と方法論のこと」。「子育て時には,親が自分の感情を整理して,伝えたいことを率直に,子ども対等な関係で伝える必要がある」。そのためには,事実と感情を分けること,特に,自分の一次感情(その出来事があった直後に沸き起こってきた感情)を的確に掴んでそれを率直に伝えることを勧めている。
アサーティブコミュニケーションは,何も子育て場面に限ったことではないよなと思う。表面的ではない人間関係を築きたいなら,対人全般で有効だろう。ただ経験上,一次感情は掴むのも,それを人に伝えるのもどれだけの勇気がいることか…,と最近思っている。

◇「コーチングのプロが教える質問の技術」 齋藤 淳子
コーチがクライアントに適切な質問を投げかけることは,コーチングのプロセスにおいて軽んじてはいけないことの一つである。クライアントは,その質問によって考えることをし始め,それは次の行動へとつながっていくからだ。そういうわけでこの本は,コーチングにおける”質問”をメインテーマとし,質問の種類や質問の仕方などを会話例を紹介しながらまとめている。
質問に関していろいろ書いてあるが,つまるところ,”相手のことを知ろう”という気持ちと”相手は答えを見つけられる/考えられる”と思う気持ちを根っこに置き,そこから放たれた質問が望ましい質問と解釈できる。

◇「チームリーダーのコーチング 基本とコツ」本間正人
以前読んだ,「図解 コーチングの「基本」が身につく本」とほぼ等しい内容。組織におけるコーチング本。端的にまとまっていてわかりやすい。
本間さんの本は,GROWモデルが登場する。GROWモデルは,コーチングステップを表している。クライアントはコーチングプロセスにおいて,G(goal)を明確にし,R(reality)を把握する。そしてGを達成するための(resource)を見つけ,O(options)を考える。そして,W(will)を確認しつつ実行へ移す,という流れである。ちなみに,選択肢を考えるときには,過去で1番上手くいった方法や,まだ試したことのないやり方,何かと何かの組み合わせ,逆に考えたらどうなるか……,こんなことはありえない!という極論,最もオーソドックスな方法とは……といったことを考えてみるのも手のようだ。コーチは,それぞれのプロセスにおいてクライアントとコミュニケーションをとり,”行動させる”。GROWモデルは,もちろんセルフコーチングでも活用可である。

◇「<【図解と実例】「初歩」からわかる!コーチング」本間正人
先に読んだ,「チームリーダーのコーチング 基本とコツ」と「図解 コーチングの「基本」が身につく本」とほぼ等しい内容。
この本に書かれていたほめると叱るについて少し取り上げると,著者によれば,ほめる=「事実に基づいて,本当のことを伝えること」で,叱る=「然るべきビジョンを示す」とのことである。ほめるとおだてるは違う。あくまでも事実を伝えるのが褒めの基本だそうだ。ということは,相手のことをよくよく観察し,相手の行動をやって当然,出来て当然というふうに考えないように心がけなければ。自分にとって出来ることだとなかなか難しいことではあるが。そして,叱ると怒るも似ているようで異なる。怒るのは感情的な行為であり,相手の行動を止めてしまうらしい。だから,ダメ出しではなく,うまくいっている状況が頭の中に描かれるように伝える。これが叱ることとのこと。ただし,フォローは忘れずにとな……

51/122 読了

2018/11/27

コーチング関連本を読んでるよ Week 3

コーチング関連本,122冊読了しよう企画をやっております。

◇「ドントウォーリー! ビーハッピー!! 松岡修造の生き方コーチング」松岡修造
ピンクの表紙と,ピンクのセーターを着た松岡さんのインパクト大!な本書。ネットに寄せられた女性からのお悩みにアドバイスするという流れで進んでいく。といっても,一つ一つのお悩みに丁寧に答えていく,のではなく,女性から寄せられた具体的なお悩みはいくつかのカテゴリーに分類され(将来が不安,人間関係がうまくいかない,結婚について悩んでいる,等)そのお悩みカテゴリーに対して松岡さんが持論を述べる,という感じ。なので,お悩みの分類がおざなりなせいか,お悩み主が聞いていることとはずれたアドバイス・持論が載っているところ数箇所あった。
女性からのお悩みはいろいろあったよ。共感できるものもあるし,なんでそれ悩む?ってのもあるし。松岡さんのアドバイスは,「自分らしく生きる,自立する」というのが根底にあるように感じた。本書に登場する筆文字による松岡さんの一言アドバイスは,自筆だそうで…見ると引き締まる思いがしました。

◇「コーチング以前の上司の常識 「教え方」の教科書」古川裕倫
部下をどうやって働かせるか,どうやって一人前にしていくか,を考えたとき,コーチングよりもまずはティーチングを…そんな考えをもとに書かれた本。商社や芸能事務所での経験がある著者の提案・文章は明快だ。
コーチングとは,クライアントに質問しながら答えを導き出させることを主とするが,そもそも答えを導き出せるだけの,知識・経験なりのストックがなければ,導き出すことはできないのである。まぁ,クライアント自身の人生等に関することならそれでもいいだろう。だが,ビジネス場面となると話は別。仕事は待ってくれないし,基本的なやり方,常識,共通認識がある。それらがわかっていない人に考えさせたところで,周りの負担が増えるうえに,本人にとって仕事しづらい状況になってしまうのである。だから,著者はまず教えよというのだ。だからといって,命令だけせよとも言っていない。教え方の基本を提示しつつ,部下の癖や性格に合わせてた教え方や,部下への承認の必要性も述べている。つまり,コーチング場面におけるコーチの姿勢も組み込まれている。
私は著者の意見に賛成。目先の利益,自分にとっての利益ではなく,部下の○○年後を見据えて指導しようというスタイル,教育にとって外せないことだと思う。

◇「キッズコーチング」後藤英郎
子ども向け研修を行っている著者による,子育て本。子育てにおいて,親がしたほうがよいこと,しないほうがよいことがたくさん書かれている。それぞれ簡潔にまとまっているのでわかりやすいが,若干杓子定規感を感じる印象。子育ての基本方針のようなものの記載がないので,それぞれの提案は若干バラバラした感じがあるが,著者によれば,ありがとうと言える,挨拶のできる,靴を揃えられる,親に感謝できる,自分の良いところをたくさん知って自分のことが好き,の5つが子どもの心に根付いていると,大人になってからも人から愛され,人間関係の良い人になる,とのこと。
tipsで印象にのこったのは2つ。まず,子どもにお金について教えること。私自身,親からお金に関して,さらには社会の仕組みに関して教わった記憶がなく,数年前,このあたりのことをちゃんと教育されたかったなと思ったことがあった。学校生活など人生の1/4程度。残りの時間は教わるよりも自ら考え,何かを作り出し,社会の中で自立して生きていく。であるなら,3/4の時間に役に立つことを小さいうちから教えてほしい。もう1つは,学校の勉強が何の役に立つの?の答えに勉強する習慣を身につけることが大切,と返すこと。質問に正しく答えていないような気もするが,あぁそういう答え方もあるのか…と思ったよ。

◇「人を育て、動かし、戦力にする実戦コーチング・マニュアル」伊東明
コーチング,とりあえずやってみましょう!と主張する内容。コーチング的な会話と,そうではない会話の比較や,コーチング的な会話で使えるフレーズ260個も掲載。コーチングに懐疑的な人から寄せられた質問への回答も掲載しているのは,この本の特徴の1つ。
著者は心理学者だ。心理学の理論を通してコーチングを見たとき,それがいかに目標の達成に向けて機能するかも述べている。例えば,リアクタンス。人は特定の行動をするよう圧力をかけられると,反発心を覚え,その行動をとらなくなる,もしくはいやいや行動するということが起こるが,コーチングは自らが答えを出すように導くのでリアクタンスは生じにくい。自己説得の理論もこの点に関係している。人は,他者から教えられたよりも自らがその行動の意味を見出した場合のほうが動く。さらには,最初は小さな要求をし,受け入れたっら要求を釣り上げるfoot in the doorという説得理論。コーチングの過程で自分ができることを答えたり,してみたりすると,そこから抜け出さなくなり,それ以上のこともついついしてしまう人間の心理にもかなっているというわけだ。

◇「教師のための「続ける力」コーチング」
 神谷和宏
つまるところ,成功する人は続けることができた人,そして続かない原因は,その人の意志や精神力だけのせいではない…そう主張する著者による,何かを続けるためのコツの提案本。コーチングをベースとした,何かを続ける子どもにするためのコツは,もちろん大人である私たち自身のためにも使える。
この本で一番印象に残っているのは,「おわりに」に書かれていた内容。「誰でもできることを,誰もできないくらい続ける」特別なことや,難しいことをするのは難しい。でも誰でもできることをする。そしてそれを続ける…これができたとき,成功へ近づくのだ。これをエジソンのエピソードを交えて述べていた。
ちなみに,誰でもできることをするには,掲げた目標(具体的な目標)を達成するまでの目標,それを達成するまでの目標,またそれを達成するまでの目標…というように負担を感じないくらいまで(日々実行可能な程度にまで)目標・やることを分割していくのがよい。そしてそれをひたするら実行していくのだ。そうすると行動グセがついていく。途中,あせってしまったら落ち着くまで待ち,気持ちをはやらせることなく平常心で,やることに押しつぶされそうになっても丁寧に取り組む…そうやって続けていくと,いつか目標を達成できるのかもしれない。
著者は,続かない人は好奇心が旺盛だからと述べていた。続かない=飽きっぽいと考えている人が多いと思うが(私もだ!),好奇心旺盛で興味が他に移っていくととらえている。なるほど!と感じた発想の転換であった。

◇「松下幸之助とEQコーチング―時代を超えて生きる「信・認・任」の知恵」本間正人,高橋仁
「松下幸之助はコーチングの達人だった」らしい。彼は,コーチングの手法,言葉が日本に浸透するずっと以前に,もうすでにそのエッセンスを実行していたようだ。本書では,現在でいうところのコーチングスキルがふんだんに含まれた,彼の元部下や松下政経塾の元塾生への接し方をエピソード付きでまとめている。
松下幸之助のコーチングで発揮された彼の特に重要な素養は,本書によれば,楽観性(未来の明るい面を見て,前向きにとらえる),ストレス対処(ピンチをチャンスと受け止める),柔軟性(我を譲り,相手のペースに合わせて話を聴く),状況モニタリング(場の空気を読み,人の行動パターンを的確に察知する),共感的理解(相手の気持ちが分かる)であった。これらの素養が,本書でいうところのコーチングの基本,「信・認・任」(人の無限の可能性を信じ,一人ひとりの多様な持ち味,成長を認め,人を活かす)で十分に発揮されていたようだ。
本書には,たくさんの松下幸之助とその元部下や元塾生とのやりとりが載っている。松下幸之助の発言の深さ,ユニークさはさることながら,それを聞いた元部下や元塾生の行間を読む力,解釈力も(私的には)半端ないと思った。松下幸之助の意図を正確に汲み取れるって…おそらく,松下幸之助という人を知り,信頼し,常に考えているからこそできるのだろうな。そして,松下幸之助自身も,相手のことを知り,信頼し,常に考えているからこそそういう発言を普通にできるのだろうな。表面的ではない,踏み込んだ人間関係が築かれている。一方から一方ではなく,双方の相手に対する想い,感情がなければこんな関係は築くことができない,というのをまざまざと感じた。

◇「顧客サービスはコーチングで変わる!―一流の接客プロフェッショナルを育てる法<」ロン・ゼンケ,クリスティン・アンダーソン
接客サービスに携わるスタッフに対して,リーダーやマネージャーはどうコーチングしていくか,に特化した内容になっている。具体的な事例もたくさん登場するし,マニュアルのような詳細さで,状況ごとにどう対処するのがいいか説明している。情報量が多いため,読むのがなかなか大変だった。
でも事例が面白い。スタッフとリーダー・マネージャーとの会話調になっているのだけど,原著がアメリカというのも関係しているんだろうか。ストレートな物言いがたくさんあってよい。また,著者はたまにユーモアも飛ばしてくる。これまでに読んだ日本人の書いた書籍は,事例がどこかリアルさに欠けていたり,ややかしこまった感があったので,この本は新鮮に感じた。

◇「パフォーマンス・コーチング―会社が変わる・組織が活きる」石川洋
通常のコーチングでは,組織全体で高い成果を出すには足りないと考えている著者。そこで,コーチング+メンタリングでパフォーマンスを向上させることを説く。
メンタリングとは,古代ギリシア時代の賢人メントールが行っていた指導法・支援法をもとに欧米で確立・普及した「人間力を重視したリーダーシップ手法の集大成」らしい。メンタリングにおいて,メンタリングする側のメンターに求められるのは,課題・問題解決の支援者であること,メンティー(メンタリングされる側)の悩み相談役であること,メンティーのキャリア意識を高める指南役であること,過去の貴重な体験や将来イメージの語り役であること,人脈ネットワークの道案内人であること,だそう。なんというか,相手の自立・成長を促すために,あらゆる方向から支援を提供する人とでも言おうか…。
本書も情報量は多め。図表もたくさんあるものの,正直読みにくい。図表にも情報量が多いことと,図表と本文がちょうどよく配置されっていないの問題だと思う。本文を読もうとするとページをめくらねばならない,図表が本文を先取りしていて図表を見てもなんの話かわからない,というのが多々あった。

◇「コーチングの教科書」伊藤守
タイトル通り,コーチングの基本事項,要点がまとまっている。初学者にも使えるが,コーチング実践者がコーチングで困ったとき,基本に立ち返りたいときに見返すのにも使える。コーチング関連本をたくさん書いている著者の本。
コーチングでは傾聴が超基本だが,なぜ傾聴が大切なのかをここまではっきりと書いているのは,これまで読んだ中で本書が初めて。人が新しく行動を起こそうとするとき,具体的なイメージを持つことで行動がより起こしやすくなる。具体的なイメージは,情報量を増やすことで持てる。それにはコミュニケーションを増やすことが必要。というのも,情報量を増やすには,情報を外から取り入れるだけでなく,自分自身の内側の情報をアウトプットすることで初めて自分の中にある情報を認識することができるから。よって,アウトプットする機会を与えるためにも傾聴が求められるというわけだ。
「オープン・シークレット」という言葉も本書で初めて知った。誰もが知っているような当たり前のことなのに普段忘れられていること。自分に非があるときは謝ること,一人ひとりはその人の人生の主役であること等。オープン・シークレットが多い場では信頼関係は築きにくいだろう。

◇「サッカーコーチングレポート 超一流の監督分析 【特別対談】岡田武史」小野剛
サッカーチームの超一流の監督とはどんな人物でどんな特徴を持った人なのかに迫る本。著者はJFAによるサッカー指導者の最高ランクである公認S級コーチの講習会のインストラクター経験もあり,その講習会の中身や,監督・コーチの養成,という視点での話もしている。そして,最後には岡田監督との対談も収録されている。
超一流コーチがもつ資質は,著者によれば,サッカーへの情熱と進歩への向上心・テクニシャンでありマネージャーでありリーダーであること,勝っても負けても次を考えられるメンタリティとのこと。これらの資質が,各監督の持つ固有のパーソナリティや価値観と融合し,個性豊かな唯一無二の監督・コーチになるのだ。
対談も興味深い。「監督の手法に万能レシピはない」ということ。サッカーは相手との関係で常に流れが変わるため,要素分解からの分析はあまり使えず,全体を見ることが必要で,そこには必ず勝てる方程式は存在しない,だから常に変え続けなければいけない。そして「リーダーで一番大事なのは登るべき山を持つこと」で,「自分の山に必死に登っている姿を見せること」。リーダーのそういう姿に人はついていく,と岡田監督は語っている。

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