―あなたをここまで連れてきたものはそこには連れて行かない。この本はここからスタートする。つまり,ここ(今)へとあなたを導いたものに頼っていては,そこ(より良い未来)へは行けないのだよ,と。
というわけで、そこに行くために,何をなぜ手放すべきかを教えてくれる。手放すことで得られるものは,そこへの近道となるようなスキルである。しかも,おそらくこれがこのコーチの手法の肝と思われるが,手放し,手放した状態をデフォルトにするために,他人からのサポートを最大限利用する。その方法に関しても述べた本である。
アメリカで何人もの大企業の経営者のコーチをしている著者だけあって,具体的かつ現実的な情報にあふれた内容だ。手放すべきものは明快だし(多くの人にとって手放したほうがよいこと20個が提示されている),どのように他人に協力してもらうかの手順(フィードバック,フィードフォワード)や,他人の協力に対してすべき反応(ありがとう)も指南してくれる。そして,自分を客観的に分析すること,自分の力だけで自己変革を起こすことの難しさを承知しているがゆえ,他人を巻き込み自分と他人でwin-winの状態にするという現実的な解決策を提示する。他人の手を借りるという点がネックになる人もいるだろうが,あなたに誠実に接してくれる他人と共にこの本の内容をやっていけば,変われることは大いに期待できそうだ。もちろん,あくまでも他人ではなく,自分が主体的にやっていくことが重要なわけだが。
何かを始めることも変わることだが,何かをやめることもまた変わること。まずは1つ,悪癖と早々にさよならしよう。
◇「エンパワーメント・コーチング」マイケル・シンプソン
エグゼクティブ向けにコーチングを提供する著者。7つの習慣で知られているフランクリン・コーヴィー博士らが設立した企業でコンサルタントも務めている。
著者が考えるコーチングの原則は,信頼,潜在能力,コミットメント(決意),実行。コーチとクライアント間にはまず信頼があり,だからこそクライアントの潜在能力を信じ,見つけ,伸ばすようコーチは動く。それによって,クライアントは何かを行うことを決意し,実行する。クライアントがコーチを使って目標を達成していくとき,そういうプロセスをたどる。そして本書では,このプロセスにおけるコーチングスキル7つ,信頼を築く,パラダイムを疑う,戦略を明確化する,完璧に実行する,効果的なフィードバックを提供する,才能を引き出す,中間層を押し上げる,についても書かれている。
フォードバックに関する章では,人が耳に痛いFBを受けたときの反応モデルSARAHフィードバックモデルが書かれていた。Shock→Anger→Rejection→Acceptance→Humility, Helpという流れで人はFBを受け止めるらしい。自分の反応の仕方を思い返せば,納得の流れである。
◇「部下を伸ばすコーチング―「命令型マネジメント」から「質問型マネジメント」へ」榎本英剛
90年代から,コーチングの普及に取り組む著者。米国で組織論,変革論等を学び,コーチングの資格の1つであるCPPC(Certificated Personal & Professional Coach)を取得している。
本書では,コーチングとは何か,時代の変化によるコーチングの必要性,東洋医学の人間観と照らし合わせながらコーチングを捉える,5つのコアスキル(質問のスキル,傾聴のスキル,直観のスキル,自己管理のスキル,確認のスキル),コーチングを導入することによって生じる個人の働き方の変化,それに続く社風の変化,さらにはそれが売上増への貢献に続くことが紹介されている。
◇「元気をつくる「吉本流」コーチング」大谷由里子
吉本興業で横山やすしさんや宮川大助・花子さんらのマネージャーをしていた著者によるコーチング本。マネージャー業での経験や,その後立ち上げた企画会社における社長業での経験をふまえ,書かれている。
彼女の人柄がよく伝わってくる本であった。
◇「メジャー初コーチの「ポジティブ・コーチング」」立花龍司