2017/04/13

本レビュー エイミー・E・ハーマン「観察力を磨く 名画読解」

最近絵を描いている。それで絵に関する本をググっていたときに見つけたのが,エイミー・E・ハーマン「観察力を磨く 名画読解」(http://amzn.asia/4bHXfX4)である。先日ブログで,「一次情報」は思考することの起点になるため重要ね(http://yukiron.blogspot.jp/2017/03/blog-post.html)という話を書いた
が,その一次情報を手にするにはどうすればいいのだろうか。答えはいくつかあると思うが,その1つは観察することだろう。ただ見ることと観察することは違う。対象を正確にとらえること,つまり,対象そのものを細部まで,バイアスをできるだけ排除して観ることがまず観察することの第一歩だと思う。そしてそこから,ちょっとした違和感(それは多分基準とのずれや論理的整合性だと思うが)を感じられるレベルにまでなれば,それまで見えていた景色は一変しているに違いない。なんせあのシャーロック・ホームズの推理も彼の卓越した観察力なしではありえないのだから(シャーロック・ホームズは架空の人物だが,実在した人物(ジョセフ・ベル)がモデルとされている)。

著者は,歴史的名画を使って観察力を高めるためのトレーニングを警察官や医学生などに提供している女性だ。本にはいくつかの絵が読者向けのトレーニングとして載っているが,やることはとてもシンプル。絵を観察し,観察内容を客観的な表現で描写したり,観察内容からその絵に描かれている事象の背景を推測したりする。これだけである。これは実際にやってみると分かるのだが,観察することに慣れていない人にとってはけっこう根気のいるトレーニングである。なんといっても,絵を観察すること自体,それなりの時間を要する。絵の全体から,細部から,何がどう描かれているかを把握していくプロセスだからだ。たとえば女性が描かれた絵。そこには観察するところがたくさんある。髪の長さは?,髪や肌,目の色は?,どんな服装をしている?装飾品は?体型は?表情は?…。挙げればキリがない。しかも,視点を変えたら見えているものもまた変わってくる。絵画よりも変化が大きいのが3次元の物体であろう。この本ではミケランジェロのダビデ像も取り上げられていたが,それがいい例である。そして,客観的に表現することも慣れていない人にとっては大変である。普段の会話でよく使う,大きい,長い,多い,気持ち悪いといった,そういう主観的であいまいな表現を用いてはいけない。○○と同じくらいの大きさとか,○㎝くらいとか,○本の線とか,○○な形の○○色の…とか,伝える相手との間で共通的に持っている指標による表現をすることを求められる。そうすると,相手と正確に情報を共有することができる。また,自分の持つバイアス(これまでの経験や持っている知識,そのときの感情など)から離れて事象を捉えることにも貢献するだろう。背景の推測については,例えば窓の外の部分はオレンジ色に塗られているから夕方の出来事を描いているんだろうとか,トーンの変化から光源の位置を推測するとかの,比較的自分の持っている知識だけで完結できるものから,絵に描かれている帽子は○○年ごろ流行っていたから,この絵が描かれてたのは○○年くらいで,この絵に描かれている部屋の内装から,当時人気のあった○○という場所だと考えられる,など,新たに手に入れた情報・知識を取り入れながら推測を進めていくものまでさまざまである。

著者によれば,歴史的名画というのは,作者やタイトル,描かれた時期をはじめとし,その絵に関して明らかになっている情報があるとのこと。それゆえ推測の答え合わせもできる。だから名画をトレーニングに使うとよいとのことであった。絵画を使うと観察力が磨かれるか否かについての学問的な実証はなかったが,著者のトレーニングを受けた人たちにそのスキルがどう活きているかのストーリーや好意的なコメントが掲載されていた。観察を実践することで気づきが増え,それによってこれまでとは異なる考えが生まれたり,問題解決に至ったり,というのが褒美のようである。

観察するという行為は時間さえとれればどこでもできる。名画の写真はネット上に落ちているし,それが無理でも身の回りのものや外の景色だって立派な観察対象だろう。1日数分でも観察することに時間を費やしてみるのはどうだろうか。

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