平日の昼前後に行ったこともあって,有閑マダムの方々で少し混雑した会場だったが,合計180点弱の作品をゆっくり観ることができた。蛙や烏,きつね,猿,人間,幽霊,鬼,鍾馗,七福神,釈迦…彼は実にさまざまなものを描いていた。しかも描き方もさまざま。細くて繊細な線によって細かく細かく描いている絵もあれば,太い筆を使って一気に描き上げたんじゃないかと思える絵もある。色使いもしかり。はっきりくっきりした色を組み合わせて豪勢に仕上げたものも,淡いぼやっとした色によってふんわりとした感じに仕上げたものもある。暁斎は5~6歳の頃から絵を描いていたらしいが,彼の絵の技術はたくさんたくさん描いて身につけた賜物なのだろう。
展示してあったほとんどは,創作の絵である。動物や幽霊たちが人間のように宴会さながら騒いでいる絵は,観ているこっちまで楽しい気分にさせてくれる。扇子をもって踊る蛙やねずみ,太鼓をたたくうさぎ,三味線を鳴らす骸骨,かぼちゃの追いかけっこなどなど,愉快なアイディアにあふれている絵が多い。なんだか昔話の世界にいるかのような気分になってくる。たくさんの対象が絵の中に描かれているものについては,描かれている1つ1つの対象がそれぞれ魅力を持っていて,それでいてあるべきところにあるべきものがある印象。だから全体としても1つに調和している感じがする。
暁斎の絵を観ているとほっこりとしたあったかい気持ちになる。今回展示されていたのは楽しい絵が多かったのだけれど,大笑いするようなおかしさではなく,思わずクスッと笑ってしまうようなもので,しかもどこか懐かしい感じがする。それに絵を観ていると,暁斎はきっと絵に描いている対象を愛おしく感じながら描いていたんじゃないか,と思わずにはいられない。絵が柔らかい雰囲気をまとっているからだと思うが,怖い顔をしてガリガリ描いている姿が想像できない。
さて,冒頭でちょっと触れた春画は,但し書きの置かれた展示会場の一角に10点くらい展示してあった。前出のHONZのページに載っているもの+他の数点である。春画ってなんでこうもエロく感じるのだろう。エロ本やエロ動画などのリアルエロを観るよりエロい気分になるのは私だけだろうか。……春画について今回はひとまずこれくらいにして,もう少しいろいろ見てからまた改めて書くことにしようか。
そんなわけで心地よい時間を過ごせた暁斎展。まだ会期中なので時間のある人はぜひ。