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2014/12/22

近代ヨーロッパを探る② 革命前夜

前回、近代ヨーロッパの幕開けを、経済システムと社会システムの変化(商業および市場経済の発達、中央集権国家の確立)、そして人々の考え方や生き方の変化(合理的精神、現世的な世界観)の始まり、とまとめた。その後のヨーロッパにおいて、経済は資本主義経済へ、社会システムは民主主義へと進んでいく。そして、対外的には植民地化を進め、覇権争いを繰り広げる。一方、中世時代のヨーロッパ精神の根幹ともなっていたキリスト教は、宗教改革を経てカトリックとプロテスタントに分裂、政治ともからみ合ってあちこちで紛争の火種になっていた。

15世紀にポルトガルやスペインが交易海路を開拓し、アメリカ大陸にあった国々支配していったのに続き、オランダやイギリス、フランスもアジアとの交易、アメリカ大陸の植民地化に乗り出していた。ヨーロッパでは貿易会社や銀行が設立され、アントワープやアムステルダム、ロンドンなどの大西洋の都市が商業都市として栄えた。ヨーロッパの商人たちは砂糖や綿花、タバコなどをアメリカ大陸から輸入し、代わりに毛織物などを輸出した。しかし、アジアとの地中海貿易によってもたらされたコーヒーや茶がヨーロッパで普及するにつれて砂糖の需要が高まり、アフリカ大陸から現地民を、奴隷としてアメリカ大陸に連れてきて働かせ、生産物を輸入するようになる。このころイギリスやフランスでは貿易によって国力の増強を図る重商主義政策が行われており、輸出先の拡大や領地拡大のためしばしば戦争が勃発し、覇権争いを繰り広げていた。

大陸内では、それぞれの国で王の権力が強大化していた。王は軍事力を高めて反抗勢力を抑え、役人を雇って政治を行っていった。また、軍事力と官僚組織の維持のために民に徴税を課し、中央への権力の集中を図った。王への権力の集中は、経済圏の拡大を図りたい商人たちにとっても都合のよいことだったので、王権強化に協力した。近代初頭のヨーロッパでは、農業に従事する人たちが大多数を占めていたが、商品経済の発展により工業製品の需要が高まり、工場で人を雇って商品の生産を始める資本家が出現、商品を運搬する道路や運河などのインフラ整備も進められた。そして、農業や酪農の進歩によって栄養状態がよくなったことや飢餓による死亡者の現象、医学の発展などにより、人口も増加していくのである。

続いて思想についてである。17世紀の初頭は、科学革命の時代と言われている。科学革命を後押ししたことの1つは、宗教改革を後押しすることにもなった、印刷技術だ。印刷技術の普及により、人が入手できる情報量が圧倒的に増えた。出版物を通していろいろな知識が行き交うようになり、これまでの通念や権威が力を失い始めた。さらに、貿易海路の開拓で天文学や地理学の知見が増えたことや技術革新により、造船術や農業生産率が向上したことなども科学精神の萌芽に関係していると思われる。そして、実験によって得た事実を元にして、理論を構築していくという試みが始まっていく。科学革命の代表的人物は、天文学のヨハネス・ケプラーやガリレオ・ガリレイ、力学のアイザック・ニュートンである。ケプラーは、ティコ・ブラーエが得た膨大な天体観察記録を使って天体の運動に関する理論を構築し、ガリレオは天体の動きを観察して得たデータを数学を使って分析し、地動説を証明した。ニュートンは、ケプラーやガリレオの説からヒントを得つつ、万有引力の理論を構築した。科学はしばしばキリスト教と対立するものとして描かれる。カトリック教会や聖職者は、科学による新しい発見をキリスト教への脅威とみなしていた。しかしむしろこれは、キリスト教が衰退することへの危惧というよりは、キリスト教という基盤によって成り立っていた社会が崩れることへの危惧といえる。しかし実際には、キリスト教への信仰をほとんどの人たちはやめていない。科学の発展に寄与したガリレオやニュートンも神を否定しなかった。

この時代には、近代を代表する哲学者が2人現れる。デカルト(フランス)とロック(イギリス)だ。デカルトは多彩であった、数学の分野では代数学と幾何学を融合させて座標を発明した。また、疑うことを基礎におき、その著書「方法序説」にて真理を導くための思考のルールを発表する。一方ロックは、政治思想に影響を与えることとなる、社会契約の説を唱える。政治思想においてもキリスト教基盤の理論が崩れたことから、それに代わる新しい理論が必要になっていた。そこに登場するのが自然法と社会契約の考え方である。自然法とは、自然に由来する、あらゆる世界にあてはまるとされている法である。自然法が支配する自然状態において人間は、自由かつ平等である。そこでは他人の生命や自由、健康、所有物を侵害してはならない。しかし、この自然状態は、犯罪や暴行などの侵害行為が起こる可能性を秘めた不安定な状態でもある。もし侵害行為が起これば、そのとき人間は侵害者を自然法に基いて罰することができる。しかし、それぞれの人間が持っている罰する権威をある1つの共同社会に譲れば、その共同社会は大きな力を持つことができる。この共同社会が人間間の仲裁人となり、不安定な自然状態を安定へと導くことができる。人間の同意、契約によって成り立つ共同社会は、人間の私有財産の保護を最大の目的とする。共同社会が自然法を侵害したならば、それに反抗してもよい、といった考え方である。ロックのこの思想には、自由と平等の思想が織り込まれている。そして、共同社会への反抗の権利を条件つきで認めていたことから、のちの市民革命に根拠を与えるのである。


参考文献
ウィリアム・H・マクニール「世界史 下」中公文庫 2008
大井正、寺沢恒信「世界十五大哲学」PHP文庫 2014
成美堂出版編集部「成美堂出版編集部「一冊でわかるイラストでわかる図解世界史―地図・イラストを駆使 超ビジュアル100テーマ 」成美堂出版 2006
J.M.ロバーツ「図説 世界の歴史〈6〉 近代ヨーロッパ文明の成立」