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2014/12/30

近代ヨーロッパを探る④ 社会主義思想と国民国家

近代においてヨーロッパの国々は、貿易によって富を得、経済力を高めてきた。なかでもイギリスは群を抜いていた。商人や生産者が国家からの干渉を受けずに自由に貿易をすることができる自由貿易の推進、海軍力によって経済活動は保護され、イギリスは世界経済の中心になっていた。産業革命もイギリスの発展に大きく貢献した。産業革命はフランスやドイツ、アメリカ、日本などにも波及、工業技術によって新たな産業も生まれ、国は豊かになり、人々の生活が向上した。その結果、ヨーロッパでは人口が増加した。

このころイギリスで主流だった政治思想は、功利主義である。功利主義は、「最大多数の最大幸福」という言葉に象徴される。自らの幸福を求めつつ、社会全体の幸福を求めることを道徳原理とする思想である。カントが、理性がもつ普遍的な道徳原理に従って行動することを支持したのに対し、功利主義者は、幸福(快楽を増やし、苦痛をなくす)のための行動を正しい行為と据える。その幸福は個人だけでなく関係者全体の幸福である。功利主義の祖とされるベンサムと、ベンサムの理論を修正、拡張したジョン・スチュアート・ミルの理論を踏まえて、ヘンリー・シジウィックは、社会全体の幸福は個人が幸福を追求することから成るものの、個人の幸福と社会全体の幸福が対立する場合には、政府による介入が望ましいとしている。

一方で、資本主義が確立し経済がどんどん繁栄する中、富を得て投資しさらに富を築く人々と、彼らに雇われて厳しい労働条件の下働く人々の間の格差が明らかになっていった。景気が循環するようになり、失業も発生するようになった。そのような中次第に力を得て行ったのが、社会主義思想である。社会主義思想は、資本主義の自由競争や私的所有権の制限や禁止を訴え、平等で公正な社会の実現を目指す。社会主義思想の拡大に大きな影響を及ぼしたのが、ドイツのカール・マルクスである。マルクスは1848年、エンゲルスとともに「共産党宣言」を発表する。「幽霊がヨーロッパをさまよう―共産主義という名の幽霊が…」で始まり、「万国のプロレタリアよ、団結せよ!」で終わる共産主義の綱領である。マルクスは、社会を貫く発展法則や社会のあらゆる側面の相互作用を、自然史の過程としてとらえて認識、分析し、その後の発展方向を予測する唯物史観の哲学をもつ。「共産党宣言」を流れているのは、①生産活動から生まれる社会組織がその時期の歴史の基礎をなしている、②よって、社会の発展のさまざまな段階における、支配する階級と支配される階級闘争の歴史が全歴史である、③今支配される階級(プロレタリア)を支配階級(ブルジョア)から開放するためには、社会全体を階級闘争から解放せねばならない、という根本思想である。ヨーロッパのこれまでの経済発展や社会の変化を歴史の必然性の中でとらえて展開し、労働者の団結、革命、現社会秩序の転覆を鼓舞している。マルクスはその後、資本主義の構造を分析した「資本論」を発表する。マルクス主義は19世紀後半~20世紀にかけて全世界に広まり、多くの革命を生んだ。そして共産党政党が生まれ、社会主義国家、共産主義国家が建国されることとなる。

また、18世紀~19世紀にかけて、ヨーロッパでは「国民国家」が次々と誕生した。「国民国家」とは血縁や宗教、言語、伝統などによって結ばれた共同体から成る国家である。近代ヨーロッパにおいて国家は、王の元で王を主権として形成されてきた。しかしフランス革命が起き、人権宣言で人権の保護や国民主権の思想が提唱されると、ヨーロッパのあちこちで国家の構成員が立ち上がり始め、政府への抗議運動や革命を起こしていく。国の代表者たちは、革命を抑え秩序を取り戻そうとするも、失敗に終わる。この間ヨーロッパではベルギーやギリシア、ルーマニアが独立し、イタリア、ドイツも統一を果たす。しかしこの「国民国家」は、争いの火種になり続ける。

東ヨーロッパのバルカン半島でも20世紀初頭に複数の国家が生まれた。しかしもともと東ヨーロッパを統治していたオスマン帝国が衰退していたことやバルカン半島は多くの民族が混在する地域だったことから、隣国である他のヨーロッパ諸国およびロシアの勢力争いがからみ合って、第一次世界大戦が勃発する。1914年の、セルビア人の青年によるオーストリア皇位継承者夫妻の暗殺を期に、オーストリアはドイツの支持を得てセルビアに宣戦する。セルビアを支持するロシアはこれに応じ、ドイツはロシアとその同盟国フランスに宣戦、イギリスもドイツが中立国であるベルギーに侵攻したのを期に参戦した。殺傷能力の高い新型兵器が使われ、膠着状態が続く塹壕戦となり、戦争は長期化、国民の間では厭戦感情が高まっていった。1917年にはアメリカがドイツに宣戦する。一方ロシアでは、戦争で疲弊した民衆や兵士が反乱を起こし、ロシア革命が起きて帝国は崩壊、社会主義国家が誕生して戦争から離脱する。1918年にはドイツでも革命が起こって帝政が崩壊し、第一次世界大戦は終結することとなった。


参考文献
成美堂出版編集部「一冊でわかるイラストでわかる図解世界史―地図・イラストを駆使 超ビジュアル100テーマ 」成美堂出版 2006
J.M.ロバーツ「図説 世界の歴史〈8〉帝国の時代」創元社 2003
ミル『功利主義論』を解読する(http://www.philosophyguides.org/decoding-of-mill-utilitarianism/
中井大介「功利主義と経済学―シジウィックの実践哲学の射程」晃洋書房 2009
マルクス、エンゲルス「共産党宣言」岩波書店 2009
ブリタニカ国際大百科事典