ドラマや映画を見ていると、"IQ200の天才"が難事件を解決したり大儲けしたりする設定に出くわすことがある。一般的に、頭の良さを表す指標としてよく知られているIQ(Intelligence quotient/知能指数)だが、年代ごとの人々のIQの分布は、平均を100、標準偏差を15とする正規分布を描くとされているから、IQ200なんて人は理論上超ド級のレアケースである(そもそも、年代別人口の50%はIQ90~110に属し、IQ130を超える人は2.2%しかいない)。それはさておき、先日、学校で誰かのIQを測定(知能検査)してこいという課題が出た。誰かのよりも私のIQが知りたいのに…という気持ちを抑えつつ友人に受検してもらったところ、受検者の感想を聞いたり、回答を分析したりするのはけっこう楽しく、いろいろな発見があった。
ところで、IQはどうやって測るのだろうか。大人のIQを測定するときによく用いられるのは、WAIS(ウェクスラー成人知能検査)と呼ばれる知能検査である。WAISは、Wechsler, D. というアメリカの心理学者によって1939年に開発された知能検査で、時代とともに何度か改訂され現在も使用されている。今回の課題で使用したのは、WAIS-Ⅲである。WAIS-Ⅲには、14種類の下位検査が含まれている。下位検査は、言語性検査と動作性検査の2つに大別され、それぞれの検査に7種類の検査がある。言語性検査とは、文字や言語を用いた課題に言語で応答してもらう検査で、単語の意味を問う課題や暗算課題,読み上げられた数字の復唱や逆唱などが含まれる。動作性検査とは、図版や記号を用いて簡単な手の操作で応答してもらう検査で、数字と記号を書き写す課題や提示された絵を話の流れに沿って並び替える課題、ピースを組み合わせて1つの形を作る課題などが含まれる。全部の検査が終了した後、マニュアルの基準に沿って受検者の回答を評価して得点化し、年代ごとに設けてある平均値と受検者の得点を比較することで、IQを算出する。
さて、今回の受検してもらった友人は、採点マニュアルの基準からそれた回答をときおりする人であった。採点マニュアルの基準からそれれば、点数はつかないので、結果的にIQも低くなることとなる。しかし、受検者になぜそういう回答になったのかを聞いてみると、それは着眼点が違っているからだったり、空間認識力が強いからだろうと考えられるからだったりで、むしろ平均的な人よりも知能が高いのではないかと思われるくらいだった。実際、回答内容もマニュアルの基準からはそれるものの、的はずれな回答というわけではなく、理解できるし、理屈も通っていた。しかし、このような能力はWAISでは測定できないしIQにも反映されない。
WAISの開発者であるWechsler, D. (1944) は知能を、”知能とは、目的的に行動し、合理的に思考し、効率的に環境を処理する個人の相対的能力である”と定義し、この定義をもとに知能検査を開発した。
つまりWAISは、受検者がどのくらい目的的に行動し、合理的に思考し、効率的に環境を処理する能力を備えているかを測定していると言える。社会の中で他者やさまざまなものと共生していく人間にとって、彼の提示した能力は生存に有益な能力である。だから知能と捉えることができると思う。しかし同時に、知能はそれだけにとどまらないと感じる。目的からそれても、合理性や効率に欠けても、個人がこれまで生きてくるなかで身につけ発揮しているもの、特にそれが社会生活を送るうえで、また、自身で肯定していたりで適応的ならば、知能になりうるのではないか。
IQとして提示された数値が反映しているものは,あくまでも限定的な能力でしかない―それが今回の実習課題を通して学んだ最も大きなことである。