トッド・ローズ「ハーバードの個性学入門:平均思考は捨てなさい」は,平均主義から脱却し,それぞれの個の違いにもっと目を向けるよう促す本だ。19世紀に「平均」の考え方が生まれて以来,人はあらゆる場面で平均を使ってきた。平均的な体のサイズ,平均的な知能,ある年齢における平均的な行動,平均的な給与などなど。そして,平均から外れていると劣っていると判断されたり,何か問題が起こっているんじゃないかと感じてしまったり,はたまた平均に近づくべく努力したりと,人は「平均」という存在に踊らされてしまう。著者の専門は個性学。平均主義から解放され,個が個として評価され,判断され,個が自分の力を存分に発揮して充実した生活を送ることができる社会を求めている。
リンク
個性学は,バラツキの原理,コンテクストの原理,迂回路の原理,の3つの原理によって支えられているという。
バラツキの原理とは,人間の資質や能力にはバラツキがあるということ。体の大きさ,知性,走る速さなどあらゆる次元においてバラツキが認められる。コンテクストの原理とは,人の行動は特定の状況によって左右されるということ。人格的特性は人の行動の予測にほとんど役に立たない。だから,私は○○な性格だ,ではなく,私は○○の状況では○○に振る舞う傾向がある,などと考えるべきだ。また,人を評価するときにも,あの人は○○だ,ではなく,あの人は○○なときに○○のような行動をとる,といったデータをもとにすべきだ。迂回路の原理とは,どんなゴールを目指そうとも,そこにたどり着く道はいくつもあってどれも妥当であり,最適経路は個性によって決まるということ。スピードも順序も人によって異なる。
非常に共感できる内容だった。年を重ねるにつれてだいぶ落ち着いてきて,今となっては,「私は私だし」と開き直っているというか肝が据わってきた状態がもはやデフォルト,周りに煽られて不安になることもそうそうなくなってきたが,20代の頃は何年もの間,みんなと違うことの不安と恐怖が心の中でグルグルしていた。特に新卒で入った会社をやめてからはひどかった。また,周りで結婚が相次いだ時期,みんなの人生を素直に祝福するのが難しいこともあった。子どもの頃は,周囲の大人から特別扱いされるのがひどく嫌だった。どれもこれも,周り―といっても狭い範囲の知り合いや世間の常識などと比較して,自分のそこからの外れ具合を悲観したからである。
でも結局,自分が心から求めていることを達成したり手に入れたりすること,自分が好きなものを自由に愛でたり楽しんだりすること,あくまでも自分主体で自分の人生を作っていく,心地よいものにしていくことが私のすべきことだと今は思っている。そのために私は今日も努力する。