ランダムにいろいろな曲を聴いているから、知っている曲、知っている作曲家の名前は年々増えているけれど、クラシックについて知らないことばかりである。バロック、ロマン派、印象派…曲調がなんか違うのは分かるんだけど、うまく言葉にできないなぁ。ラフマニノフの曲が好きだけど、ラフマニノフってどんな人だったんだろ?対位法って何?などなど、曲を聴くにつれて、曲の解説を読むにつれて?が増えていく。ということで、岡田暁生「西洋音楽史―「クラシック」の黄昏」を読んでみた。
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この本、とてもおもしろい。ヨーロッパにおいてどのような経緯でクラシックは生まれ、どのように変化していったのか、とても分かりやすく書いてある。その時代にヨーロッパで起こった出来事と絡めてあり、西洋音楽の変遷を細部にとらわれることなく紹介しているから頭の中でも整理しやすい。出来事は、その出来事が生まれるための土壌が整っていたからこそ生まれることができた、ということを感じれる。例えば、オペラはバロック時代(1600年前後-1750年前後)に誕生した。音楽的には希望や悲しみ、勇気、怒りなどの典型的な情動に対応した、典型的な音楽表現が曲に組み込まれるようになった。時代的には、カトリック圏の王侯貴族たちが豪華絢爛な生活を営んでいたころである。彼らが毎夜のように開く祝祭に音楽は彩りを添えており、そのような環境のもとでオペラは生まれたのである。
音楽の変遷も然りだ。グレゴリオ聖歌のアレンジはその例である。著者によれば、今日でいうところのクラシック音楽は元をたどれば「グレゴリオ聖歌」に行き着く(「怒りの日」は有名なグレゴリオ聖歌の1つ。https://youtu.be/Dlr90NLDp-0)。グレゴリオ聖歌とは、「単旋律によって歌われる、ローマ・カトリック教会の、ラテン語による聖歌」(p.7)だが、この聖歌を人々がアレンジし始め、そのアレンジが人々に受け入れられたことによって様々な音楽が生まれていった。もとの旋律に新しい旋律を加えて歌う、別の言語に翻訳した歌詞を元の旋律に加えて歌う、歌詞を変えてもとの旋律に加えて歌うなどだ。いつしかこのアレンジした旋律や歌詞が主流となり、「楽しむ」という新たな機能が音楽に付加されていくのである。ここから読み取れるのは、音楽に含まれるある要素(例えば、旋律、歌詞、旋律のある一部分など)にアレンジを加えることで新たな音楽が生まれていくということである。このことはグレゴリオ聖歌にとどまらない。先に述べたバロック時代の音楽で感情を表現する行為もそうと言える。時代が下っていくにつれて豊かな感情を豊かな音によって表現するようになっていく。変化していった要素は他にもいろいろある。和音の効果、曲の形式、演奏技法や技巧など、時が移り変わる中でときにそれは精緻化され、時にその性質は消されて反対の性質のものが生み出される。特に、20世紀の前後の音楽家、シュトラウスとマーラー、シェーンベルグとストラヴィンスキーが反対の方向に進んでいくのが興味深い。前の2人はロマン派の名残を引き継ぎ自らの音楽を生み出しだが、後者2人は破壊することで自らの音楽を作っていった。当時の音楽家がそれまでの音楽をどのように感じ、それを踏まえて自分のオリジナルをどう作っていったのか…そんなことに思いを馳せながら曲を聞くのもまた、感慨深いものだ。