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2016/09/28

疾患自体がミステリー

ここ最近,「キルミー・ヒールミー」という韓国ドラマを見ている(http://killme-healme.jp/)。解離性同一性障害(多重人格)を患っている男性が,新米女性精神科医のもとで癒され,症状を改善させていくプロセスを描いた話だ。謎解き要素と恋愛要素も盛り込まれていて,ぐいぐい引き込まれる。そして解離性同一性障害の男性を演じるチソン,イケメンなうえに演じ分けがすばらしい。にしても解離性同一性障害,謎である。ドラマの内容よりも疾患自体がミステリーだ。

ドラマを見ててふと感じた一つ目の謎は,交代人格の名前ってどうやって決まったのだろう,ということだ。私には名前がある。でも私の名前は私がつけたものではなく,親が私の意思とは関係なく勝手につけたもの。赤ちゃんの頃からその名前で呼ばれ続け,いつの間にかその名前が私の名前だと認識するようになり,私は私の名前の人物になる。多くの人がこのようなプロセスをたどっているはずだ。では,多重人格に現れる交代人格たちはどうなんだろうか。交代人格は主人格の脳の中で生み出される人格で,主人格の一生のうちのどのタイミングで出てくるかも,どのくらいの頻度で出現するかもバラバラ。だからほかの誰かが名付けたとは考えにくい。さらに,主人格が交代人格の存在を把握しているとも限らないから,主人格が名付けたとも考えにくい。とすると,交代人格が自分で好きな名前を名付けたんだろうか?となる。え,でも名前付けるにも言葉知らなきゃいけないし,名前として使われている名前をつけているから,名前に関する知識があるんだろうか?

そう考えると次の謎が生まれてくる。交代人格と主人格はどのくらい記憶を共有しているのだろう。ドラマの中で交代人格たちは,言葉を話したり車を運転したり,絵を描いたりできる。交代人格たちがそれらの能力を,赤ちゃんがゼロから習得するように習得したとは考えにくいから,多分主人格が持っている手続き記憶を共有しているのだと思う。しかし,ビリー・ミリガン(実在した多重人格者)のように,主人格が習ったことのない言語を使える交代人格もいたりするので,手続き記憶だからといって共有されるとは限らないのだろう。個人の経験(エピソード記憶)に関しても,共有していることとしていないことがあるようだ。ドラマでは,交代人格たちがしていたことを主人格はまったく覚えていないものとして描いていた。そして交代人格たちは,自分がしたことを覚えている。ということは,記憶としては脳のどこかに存在していて,主人格はそれを引っ張り出せないということになるのだろう。でも逆に,交代人格は主人格やほかの交代人格についてよく知っていたりする。「24人のビリー・ミリガン」にもそんな話があった。ということは,どのくらいの記憶を脳から引っ張り出して意識化できるかは,それぞれの人格で違うということになる。じゃあその違いってどうして生まれるんだろう?

さらに,もう一つ。ドラマで登場する交代人格たちは,自分が交代人格であることを認識している。え,それってどういう感覚?なんで交代人格だって分かってるの?というか,どういうプロセスを経て主人格から分離して交代人格へと確立するんだ?

…本当に謎だらけ。


参考資料
記憶の分類(https://bit.ly/3uTmvud) 
ダニエル・キイス「24人のビリー・ミリガン」